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Reference/その根拠

第53回TOEIC研究会基調講演より

「グローバル時代に求められる英語力」 
國弘正雄(くにひろまさお)
「同時通訳の神様」の異名を持つ同時通訳の第一人者。

“人間の言葉の特徴とそのその効果的な学習法”全文

さて、二番目のテーマである、人間とチンパンジーの言葉について触れたいと思います。 
 かつては人間だけが言語を所有し使用するとされていました。
人間こそが万物の霊長であり、他の生物よりも優れている。また、道具を使用するのは
人間だけであり、これが今日における文明社会を築いたとする考えもありました。 
 しかし、現在ではこの考えに対する二つの点が明らかにされました。       
一つは人間以外にも言葉を使用する生物が存在すること。もう一つは人間の言葉は
他の生物のそれと比較して大きな特色を持つこと。特にこの点に配慮して、人間の
言語活動の特徴に適合した言語教育を実践することが重要であると思います。 
 まず、人間以外に言葉を使用する生物の例としては、ミツバチが挙げられます。        
彼らは「ミツバチの踊り」と呼ばれる独特な行動によって仲間との情報交換をします。
厳密には言葉と呼べるか疑問ですが、ミツバチは花を見つけると巣に戻り、踊りによって
仲間に蜜の方向、距離、量などの情報を伝えます。この行動はミツバチにも
情報伝達手段が存在することの証明です。このミツバチの踊りの研究でノーベル賞に
輝いたドイツの学者もいるほどです。ミツバチがわれわれ人間と同じような形で会話を
する証拠はありませんが、仲間とコミュニケーションをしていることは明らかです。 
 また、高度な知性を持つとされるイルカやクジラなどもある種の意思伝達手段を持つ
ことが最近の研究により明らかにされています。我々の言葉とは明らかに異なりますが、
ある種の意思伝達の機能を果たしており、言葉として広義に解釈しても問題はありません。 
 さて、類人猿に話題を転じてみましょう。類人猿にはゴリラやオランウータンなど多くの
種類がいますが、中でもチンパンジーは明らかに言葉を理解することが1930年代以降、
ネバダ大学をはじめとするアメリカの研究者により解明されてきました。日本でも
チンパンジーの言語学習能力について、京都大学や犬山のモンキーセンター
などにおいて多くの実験が行われています。  
 私のもともとの専門は文化人類学ですが、類人猿の言語能力を研究する分野とは
比較的深い関係にあり、これらの研究に関する報告書にはつとめて目を通すように
しています。その研究の結果としては、チンパンジーにも言葉があることが解明され、
人間だけが言葉を使用するという独善的な主張は後退しつつあります。 
 加えてチンパンジーも道具を使います。最近の調査によると、自分が使用する道具を
つくるための道具までつくることが判明しました。これは非常に高度な能力として
人間に匹敵するものがあり、脱帽に値します。チンパンジーを単なるサルと考えるのは
大きな誤りで、生物学的に分類しても彼らは人間の仲間です。逆に言えば人間は
チンパンジーのむしろ仲間でもあり、両者は進化の過程においてもごく近い
関係にあります。 
 長年にわたる研究の結果、チンパンジーの驚異的な言語能力が次々に解明されました。
その一例として、“ワッシュー”という雌のチンパンジーの実験があります。言葉に関しては
雌の方が有能らしいのですが、この雌のチンパンジーは135語を覚えただけでなく、
数個の単語を組み合わせて新しい言葉までつくりました。その一番傑作な例は
冷蔵庫(IceBox)という言葉で、この言葉を教えられなかったにもかかわらず、
彼女は学習した既得の単語を3個組み合わせて、冷蔵庫の意味を表現しました。
3個の単語とはopen、eat、drink で、これらを組み合わせるときわめて冷蔵庫に
近い意味になります。基本的に冷蔵庫はこの3つの目的以外に使用されることは稀で、
彼女は冷蔵庫という概念を自分で考えて言葉として表現してみせたのです。 
 その他にも、より高度な言語活動の例もあります。“ニナ”というチンパンジーに対する
実験では、彼女に剥製のチンパンジーを見せ、その反応を調べました。すると彼女は
いくつかの言葉を使用して感情を表現したのです。それは“友達、私、悲しい”でした。
これは知性が高度に発達して初めて可能になる感情表現であり、死者を悼む姿勢が
見られ、死者儀礼の萌芽すら窺えます。他にも例は多数ありますが、チンパンジーにも
言葉があることは確実です。
 しかしここでいよいよ種明かしですが、彼らが使うのは視覚言語(Visual Language )に
限られています。具体的には American Sign Language =アメリカ式手話と呼ばれる
ものです。これを聴覚言語ではなく、視覚言語として使用します。“ニナ”の場合も4個
程度の単語を組み合わせて新しい概念を表現しますが、すべて手話にとどまるのです。 

 結論としては、チンパンジーも言葉を使用しますが、視覚言語の域を脱していない、
ということです。チンパンジーには人間が会話で使用する聴覚言語としての能力が
欠落しています。あくまでも耳と口を使用しない言葉であり、これが人間の言語との
大きな相違点です。人間も視覚言語を使用することはありますが、より複雑な
聴覚言語を持つことがチンパンジーとの決定的な差です。生物学的にも、
チンパンジーの下唇は未発達で、機能上、聴覚言語と唇や口腔の形状が 
重要な関係にあることが理解できます。      
 また、脳の構造においても、人間の場合は言語中枢が左右に二分割されています。
一つは文字や音声などの情報を理解する部分、これを発見者の名を取り
“ベルニッケ中枢”と呼んでいます。この中枢は言葉を情報として理解する、
いわば受信アンテナの役割を担当しています。 
 それに対応して“ブローカ中枢”と呼ばれる部分が存在します。同様に発見者の名に      
由来するのですが、音声を使用する言語運動の形で、情報を発信するこの中枢が
ベルニッケ中枢と隣接する部位にあります。つまり、この両者が活発なインターアクションを
行なうことにより言語活動が成立する仕組みです。この働きをコンピュータ用語では
フィードバックと呼びますが、言葉を理解する中枢と使用する中枢との間で相互関連が
行なわれることが人間の言語の特徴です。 
 人間の言語活動が二つの中枢の間で激しくフィードバックされる形で存在する以上、
この特色をいかに言語教育に取り入れるか、十分な配慮が払われなければ教育効果は
期待できません。残念ながら日本の伝統的な外国語教育は、いわばチンパンジー向けで
あったと断言してもよいと思います。つまり、視覚言語しか持たないチンパンジーに
対する教育方法だったと、断言できるのではないでしょうか。しかし、人間の場合、
聴覚と視覚が激しく交流する言語運動が存在するという前提にたったなら、これでは
言葉を学習する方法としてはきわめて不適確と言わざるをえません。 
 たとえば文字を見た場合、その情報が視覚神経を通じてベルニッケ中枢に送られます。
これを大脳生理学的に表現すれば、「理解が生じる」ことになります。黙読では、
ベルニッケ中枢しか使用されませんが、音読の作業が加わると、ブローカ中枢という
言語運動領域に情報が伝達され、この中枢の働きにより音声信号が発信されます。
つまり、目からの情報を理解する中枢とそれを音声化する中枢の両方が同時に使用され、
両者の間では活発なインターアクションが行なわれます。音読する場合はブローカ中枢に
命令して音声を発し、それを耳で聞きベルニッケ中枢に伝える。誤って読んだ場合は、
ベルニッケ中枢が誤りと認識して、訂正した音が再びブローカ中枢から発せられるという
相互交流が起きます。  
 これが人間の言語活動の仕組みです。この構造を可能な限り忠実に再現し言葉を
習得させることこそが、自然で理にかなった学習方法です。 しかし、残念ながら
過去から現在に至る日本の外国語教育においては、この方法が採用される機会が
少なかったようです。  
 結論として、人間の言葉を学習する場合には二つの中枢を同時に刺激する方法が
不可欠であり、他に教育としての有効な手段はありえないと断言しえます。その具体的な
方法としては語学教育において音読を徹底的に採用するべきだと思います。

「資料提供:TOEIC運営委員会」          戻る

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